除草剤は北へ

 
   
 「道の駅おおとね」の除草剤
 上の写真は、埼玉県大利根町の「道の駅おおとね」のホテイアオイ田である。撮影は今年(2007年)の7月28日。
 緑の葉と薄紫色の花がきれいなホテイアオイを、この道の駅では観光客を呼ぶシンボルとして周囲の田んぼで栽培している。毎年、ホテイアオイの写真のコンテストも開いているほど、近隣の人々に間に定着しているホテイアオイである。
 ぼくは毎年何度かここを訪れている。ぼくの目的は、ホテイアオイではなく、ホテイアオイ田の横の水路でフナを釣ることなのだが。
 ここの水路の話はすでにこのシリーズの「フナは除草剤に負ケズ」に書いているので、まだ読んでいない方はそちらから先に読んでいただきたいのだが、このホテイアオイ田と横の水路は、畦に除草剤を撒いていなかったので、とても気分よく釣りができる、しかもフナがたくさん釣れる水路だったのである。この写真の1週間ほど前にも、ぼくはここで青草を踏みながら、学校のビオトープ要員のフナを何尾も釣ったのである。
 なぜここの水路にこだわるのかというと、埼玉県、千葉県、茨城県の田んぼでは、過半数の畦が除草剤を撒かれて茶色くなっているので、いくら魚たちがそこにいても、釣っていてあまり気分がよくないのである。それにぼくは釣ったフナを食べることもあるので、はっきりと農薬散布の証拠がある場所のフナを、あまり食べたくないのである。
 もちろん、田んぼの中には通常の栽培方法で除草剤が散布されていることは知っている。だが、田んぼの中の除草剤は、その証拠が目に見えない(たまにドジョウが死んでいたりすることはあっても)。それに、このような水路のフナでも、ウナギの蒲焼きよりは安全だとぼくは思っているので、年に何度かはフナを食べている。そしてフナを食べることによって、ぼくは環境汚染のなかでけなげに生きる彼らの立場を理解し、彼らが安心して住める環境を取りもどす決意を新たにしているのである。このあたりの理屈は、拙著『春の小川でフナを釣る』(まつやま書房2001)に書いているので、まだ読んでいない方はご注文いただきたい。

 ぼくが畦への除草剤散布に拒絶反応を示しているのは、それが視覚的に、まったく一目瞭然にわかってしまうことと、独特の臭いが鼻につくこと、そして、畦が茶色くなっていてもそれを気にしない人々の意識が恐ろしいと思うからである。農村景観、田園風景を寒々しいものに変えてしまうものの一つが、畦への除草剤散布だと思っているからである。
 畦への除草剤散布は、確実に広がっている。田んぼの大型化と、農家の高齢化が、畦の草を草刈り機で刈るよりも楽な除草剤散布を広めた原因の一部だと思っている。だからぼくは、茶色い畦を見るたびに、日本の農業の現実にため息をついているだけなのだ。
 しかし、ホテイアオイ田は別である。景観を呼び物にしているその場所に除草剤を散布するということは、ホテイアオイの周りが茶色くなってもそれが景観破壊ではない、と考えている人間がいるということである。もうここの人々は除草剤に慣れ過ぎて、感覚が麻痺しているのではないか。夏の田んぼの畦が除草剤でかれているのがふつうの景観だと思ってしまっているのではないか。まったく恐ろしいことである。
 そこでぼくは、大利根町役場に、ホテイアオイ田の畦への除草剤散布をやめてほしいというお願いのメールを送った。それは次の内容である。

大利根町役場 道の駅担当者様

 初めてお便りいたします。私は東京都八王子市在住の大穂耕一郎と申します。
 私はここ10年近く、フナ釣りを媒介として、主に東日本の水田や用水路の様子を見て歩いています。2001年には埼玉県の出版社・まつやま書房より、「春の小川でフナを釣る」を刊行し、その中で大利根町の水路のことにも触れています。役場にうかがって、カスリーン台風の冊子をいただいたこともあります。

 さて、7月28日(土)に道の駅大利根のホテイアオイ田横の水路でフナを釣ろうと出かけたところ、ホテイアオイ田の周囲の畦が茶色くなっているのにびっくりしました。除草剤散布によると見られます。
 大利根町でも、あちこちの田んぼの畦が除草剤によって茶色くなっていることは以前より承知しています。私は、水田への除草剤散布は現状では仕方がないと思っていますが、畦畔の雑草を除草剤によって枯らすことは、生物への影響だけでなく、農村景観の面からも好ましくないと考えています。
 これまで、ホテイアオイ田の畦には除草剤は散布されていなかったと思います。(7月21日には少なくとも散布されていませんでした。)それは、ホテイアオイが道の駅のシンボル的存在であり、これを見に来る人たちも多いことから、景観に配慮して除草剤を撒かないのだろうと思っていました。しかし、28日に除草剤による雑草の枯死を見て驚き、お便りした次第です。
 畦畔除草には、草刈り機で刈るよりも除草剤を撒くほうが楽なことは承知していますが、「童謡の里」大利根町を代表する景観であるべき場所に除草剤を撒くことは、自らその景観を壊してしまうことになります。
 美しい農村景観を少しでも守り伝えるために、せめてホテイアオイ田周辺の畦への除草剤散布を控えていただくよう、お願いいたします。


 もちろん、私の住所も書き、私のホームページの案内も載せた。

 宮城にも岩手の畦にも除草剤が
 今年(2007年)の7月、仲間4人で「岩手くんせい紀行」に出かけたとき、東北自動車道の紫波インターと盛岡南インターの間で、道路脇の法面に除草剤による草の枯死を見つけた。数kmにわたってそれが続いていたので、「ついに高速道路にも使われるようになったか」と、ぼくは衝撃を受けた。
 道路公団は、ぼくはきらいだったのだが、道路脇の除草作業は草刈り機によっていたので、夏になると両側の緑色が心地よく、このことだけは道路公団を支持していた。だが、民営化されて「東日本高速道路」となって、除草剤を使うようになったのだろうか。いや、ほんの数kmだけだったので、これはテストなのだろうか。どちらにせよ、これはゆゆしき事態である。
 盛岡南インターを降りて区界へ向かう国道106号沿いでも、所々に除草剤散布のあとを見つけて、顔をしかめた。いよいよ岩手にも除草剤の手が伸びてきたようだった。
 そして8月、宮城県と岩手県の田んぼを再度観察し、ぼくは顔をさらにしかめることになった。関東平野ほどではないが、それまでほとんど見られなかった除草剤散布のあとに、あちこちで出くわしたのである。
 下左の写真は、宮城県大崎市の、陸羽東線西大崎駅近くの水路である。道路側の岸に除草剤が撒かれている。この時期、草刈りを済ませたあとの畦にも刈られて茶色くなった草が見られるのだが、除草剤を撒かれた草は立ち枯れしているので、近くで見ると一目瞭然である。下右の石碑は、「畜魂碑」である。水路の脇に、家畜の魂を慰めるために建てられた碑なのだが、碑の周りにはみごとに除草剤が撒かれていた。これでは牛や馬の魂は、草を食むことができないだろう。
 それでも、この水路にはたくさんの魚たちがいた。ミミズをつけて振り込むと、魚が玉ウキを食べようとして水面まで上がってくる。釣れたのは、アブラハヤ、タモロコ、そしてウグイ。水の中を泳ぎまわる魚たちにうれしくなったが、それも「中くらい」の「おらが夏」だった。

     流れはとてもすてきな水路。

    畜魂碑がかわいそうでした。

 ハグロトンボがたくさん飛んでいました。

 小さなアブラハヤ。もっと大きなものも釣れました。

 
  陸羽東線を走るキハ110系ディーゼルカー。何だかのっぺりした感じ。
                     2007.8.2  東大崎―西大崎


 伊豆沼近くでフナを釣る
 とても暑い日だったけれど、陸羽東線のディーゼルカーの写真を撮ったあと、水分を補給しながら伊豆沼へ向かった。
 伊豆沼は、渡り鳥を保護するラムサール条約に登録されている沼だが、ブラックバス駆除の先進的な取り組みをしていることでも知られている。ぼくは去年の11月に大崎市古川で開かれたシンポジウムに参加してとても感激したのだが、まだここでの実際の活動には参加できていない。一度は活動を体験したいと思いながら、とりあえずフナを釣ることにしたのである。
 伊豆沼の近くには、東北本線が走っている。その線路のそばの水路で試し釣りをしたが、ウキが動かない。しかたなく、線路からだいぶ離れた水路に場所を変えると、ウキがすぐに動いた。釣れたのは、もちろんフナ。うれしい瞬間である。そして遠くに貨物列車。さらにうれしい瞬間になったのである。
  
   夏の伊豆沼は、ハスの名所。冬はハクチョウやガン、カモたちがやって来る。

 これが伊豆沼の水路の小ブナ。

 ここで釣りました。茶色い草は、草刈り機で刈られたもの。

 土手の上から水路を見ます。

 ここではコイっ子が釣れました。

 
  遠くを貨物列車が走っていきます。うれしい場所です。 また来るぞっ!
                     2007.8.2  東北本線 新田―石越


 フナと水路と列車を見ているうちに、ぼくはここでゆっくりとフナ釣りをしたくなった。もちろん涼しくなった秋口あたりがいい。黄金色の稲穂の波と列車を眺めながらフナを釣り、持ち帰っておいしくいただきたい。
 帰り道、沼の岸の土手に新しい看板を見つけた。それには「入漁券400円を購入してください」とある。あれれ、ここは券が必要なのだ。そこで若柳町の釣具屋で聞くと、「まだはっきり決まっていないんですよ」とのこと。でも、伊豆沼は内水面漁業も行われているので、食べるフナを釣るぼくは、400円を払うのが当然だろう。今度来たときには、券の写真も撮ることにしよう。

 そんなわけで、そのうちに「伊豆沼フナ釣り紀行」がこのページに登場すると思います。ご期待ください。

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