田んぼの水路でフナを釣る 8

   フナは除草剤に負ケズ

 前のページの「田んぼと里山の春」では、日本の原風景を楽しんでいただいたと思うのだが、ここでは日本の田んぼの現状について、お知らせしておかなければならない。
 下の写真は、ぼくの埼玉県でのフナ釣りのフィールド、大利根町の水路である。田んぼからの排水路だが、毎年6月中旬になると、埼玉用水からの水が通され、たくさんのフナたちが、またいで渡れる幅の水路にやって来る。
 その水路の横の畦が茶色に変色しているのは、畦の草に除草剤を撒いているためだ。手前の、除草剤を撒いていない畦の草と比較してほしい。

 いま、日本の田園の多くに、雑草を枯らす除草剤が使われている。田んぼの中にも、無農薬田でなければ、田植えのあとに除草剤が撒かれる。そして関東平野の田んぼの、ぼくの観察では半数ほどの田んぼの畦にも、除草剤が撒かれている。

 田園の景観が破壊されている
 日本での農薬の使用は、1945年の戦争終結後から広がった。1960年代には、残留性の強いDDTやBHCといった強力な殺虫剤が多用され、田園の生き物を駆逐していった。70年代に入って、これらの農薬は相次いで使用が中止され、残留性の弱い農薬に代わってきた。今はある程度、田園に生き物がもどっている。
 農薬としては、殺虫剤のほかに、雑草を枯らす除草剤が普及している。これも、毒性の強いものは次第に使用中止になってきているのだが、人間を含めた生物の遺伝子への影響は未知数である。
 除草剤の普及は、農家の人々の草取りの手間を革命的に軽減した。また、除草剤や殺虫剤を今すべて使用禁止にしたら、地球は食糧危機に見舞われるといわれている。だが、ぼくは段階的に農薬の使用料を減らして行く方策を考えるべきだと思っている。
 ぼくがまっさきに止めてほしいのは、田んぼの畦への除草剤散布である。上の写真で分かるように、除草剤を撒かれた畦は茶色に変わり、かつての「緑一色の田園風景」を見事に破壊しているからである。田んぼの中への除草剤散布は、まだ我慢しても、あまりに目立つ畦への散布は、農村景観だけでなく、人間の意識も破壊してしまうような気がするのだ。
 
  滋賀県にて。

 自治体や農協の指導と関係が?
 畦への除草剤散布の状況は、県によってまったく違う。ぼくの観察では、関東地方では、東京都、神奈川県の田んぼではまだ「茶色の畦」は見ていない。一方、埼玉、千葉、茨城の多くの田んぼの畦には除草剤が撒かれ、栃木県では、南部で散布が多い。新潟平野はほとんどの畦が「茶色」だが、東北へ行くと、その割合はずっと少ない。ただ、秋田県では散布が広がっているようだ。また、中山間地域ではきれいに除草機で刈られた畦が多く、平野部では除草剤が多い。
 どうも、自治体や農協などの営農指導と深い関係がありそうである。実際、5年前に新潟県のある自治体の文書を見せてもらったら、年3回の、畦への除草剤散布が方針として書かれていた。
 畦の草刈りは、イネの害虫の繁殖を防ぐために必要な措置である。しかし、いくらエンジン付きの除草機でも、高齢化がすすむ農家には重労働。それに比べて、タンクを背負って、長いジョウロで除草剤を散布するほうが楽なのだろう。
 それにしても、畦への除草剤散布をほとんどしていない岩手県の慣行栽培米と、新潟県の減農薬米が、実は農薬使用量が変わらなかったりするかも知れないのだから、いやになってしまう。

 緑の畦の横でフナを釣りたい
 ぼくのフナ釣りのフィールドは、田んぼの用水路である。そしてぼくは、釣ったフナを食べるのである。だからよけいに、田んぼの現状が気になってしかたがないのだ。
 ぼくの釣りは楽しみの釣りなのだから、素敵な景色の中で釣りたい。釣ったフナを食べるのだから、あまりにはっきりした農薬使用の証拠を前にして釣りたくない。だからぼくは緑の畦を探している。
 埼玉県大利根町の道の駅の横の水路は、そんなぼくの願いを、ほんの200mほどだけ、かなえてくれる。水も、用水から引いて間もないので、田んぼからの直接の排水も少ない。それにフナも多い。だから、年に何回も通っているのだ。

      水路の周りは緑だけ。左奥に道の駅が見える。  2005.7.2.
 なぜここだけが緑の畦なのか? おそらく、観光客への配慮だろうとぼくは思っている。道の駅の周りの田んぼは、ホテイアオイを栽培していて、花の時期にはたくさんの観光客が訪れ、写真コンテストも開かれている。だから、茶色の畦が目についてはいけないのだろう。でも、そのおかげでぼくは楽しい釣りができるのだ。
 もっと緑の畦が増えてほしい。ぜいたくな願いとは、ぼくは思わない。日本の田園景観は今、正念場に立たされているのだ。


  フナのウロコが金色に光る。  2005.7.2.

   
 幅60cm、深さ30cmの枝水路にもフナが入っていた。  2005.7.2.

 
 コイかと思ったら、ソウギョらしい。でも、エサはミミズなのだけど。サイズは30cmほど。もちろんリリース。

   田園景観を守りたい。もちろん、釣りのためだけでなく。 2005.7.2.

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