岩手の渓のザッコ釣り 

 
   ここが、鉄道ファンにとって日本一のイワナ釣り場。 北上川の源流である。
 そもそもは
 ぼくが初めて本を書いたのは、今から14年前の1992年。「峠を越えたヤマメはイワナになった」という、渓流釣りの本。渓流釣りというより「渓流遊び」といった雰囲気の本だ。その続編として、1995年に、「サケはシロザケ、ヤマメはサクラ」を刊行した。出版社は、八王子の「のんぶる舎」。今はもうつぶれてしまった。
 だから、ぼくの渓流釣りの続々編は、今のところ、出版されるあてがない。でも、渓流釣りはずっと続けているので、話のタネはたくさんある。だからここで書いてしまうのである。
 
 列車を眺めながらザッコ釣りができる
 イワナと言うと、険しい山奥の沢に潜む「幻の魚」というイメージを持つ人もいるのではないか。ぼくも昔はそう思っていた。でも、今は違う。なにしろ「ザッコ」なのだから、家の軒下にも畑の向こうにも、用水路までも入ってくるのだ。
 そもそもぼくは高いところ、怖いところがきらいなので、深山幽谷には行きたくない。のんびりと釣りがしたい。そんなところをいつも選んでいる。
 上の写真は、鉄道ファンならすぐわかる場所。東北本線(今は第三セクターにされてしまったが)御堂―奥中山間の勾配を上る貨物列車である。機関車は新鋭の「金太郎」。(本当に金太郎なんです。)でも、ぼくがこの写真を撮った場所は、川の中。ザッコ釣りの竿を横に置いてカメラを構えたのだ。
 川は北上川の源流で、ここにはイワナもヤマメもいる。でも、雰囲気は渓流釣りのイメージではない。上流には牧場があり、放牧されている牛のフンの成分が流れに混じっているのだ。それに、雨が降るとすぐに濁ってしまう。でも、ぼくはここが好き。電車や貨物列車を見ながらイワナが釣れるなんて、こんな素晴らしい所はなかなかないのだから。
 
 まわりにも目を向けていきたい
 ぼくは1990年代後半の数年間、つり人社が毎年2回発行している、月間「つり人」増刊号の「渓流」誌に、原稿を書いていた。だが、編集者が変わったとたん、クビになった。新しい編集者いわく、「ウチは釣りの雑誌であって、鉄道の雑誌ではありません。」
 そう、ぼくは、山田線、花輪線、秋田内陸縦貫鉄道、わたらせ渓谷鉄道など、鉄道沿線の渓の紹介をしていたのだ。もちろん、鉄道の話も取り混ぜて。でも、ぼくが切られた本当の理由は、ぼくが「ブラックバス駆除派」だからではないかと、密かに思っている。つり人社は、ブラックバス擁護派の筆頭なのだ。
 でも、つり人社から切られたおかげで踏ん切りがつき、2001年に、埼玉のまつやま書房から「春の小川でフナを釣る」を出版したのだから、今となっては幸いだったと思っている。
 話がずれた。でも、別にぼくは、線路が見えないところでは釣りをしない、というわけではない。釣り歩くその地域の人々の生活とか、風景のあたかさとか、そんな所にも目を向けていきたいと思っているのである。
      
       閉伊川上流、松草地区に架かる木橋。クルミの木が枝を広げている。

 村のクルミの木の下で
 山里の川沿いの道を走っていると、クルミの木がとても多いことに気づく。
 夏になるとクルミの木は、一部の葉が黄色く色づく。緑の葉の間に黄色の葉が混じっている様子は、ちょうどトウモロコシのピーターコーンに似ている。(あれは黄色の中に白があるのだが。)このころ、すでに枝先には緑色のクルミの実が、マスカットのお化けのように垂れ下がっている。
 このクルミの木、本名をオニグルミという。山奥の沢沿いには、サワグルミの木が多いが、樹形も実もまったくちがう。ぼくたちがクルミと呼んでいるのは、オニグルミのほうである。どうして「オニ」なのかは知らないが、胡桃の冬芽をじっと見ていると、鬼の面のようなイメージが湧くからかもしれない。
 クルミの実(正しくは、種子の中の胚)は、菓子にもよく使われるし、果物屋でもときどき見かけるが、それはセイヨウグルミの場合が多い。セイヨウグルミはオニグルミよりも実が大きく、表面がのっぺりしていて、しかも割れやすいので、日本でも栽培しているところがあるそうだが、ほとんどは輸入物とのこと。
 オニグルミの実は、見た目がごつく、しかも、「くるみ割り人形」ではもちろんのこと、店で売っているクルミ割りでも、なかなか割ることができない。ぼくは、もっぱらトンカチを使っているが、これもコツが必要で、クルミの頭のとがった部分を、釘を打ち込むように、叩く力を次第に強くして、ピキンと割る。味は、セイヨウグルミよりも濃くておいしい。
        
            初秋、川岸のクルミの木に残照があたる。(遠野市郊外)
 ほとんど流通していなかった国産のオニグルミだが、最近は、道の駅などで「地場産」として売られているのをよく見かけるようになった。
 このクルミ、昔は、飢饉のときの「救荒食料」として、大切に扱われていたそうだ。脂肪分のたっぷり詰まったクルミは、きっと歴史の中で何千万人もの命を救ってきたに違いない。
 村の川べりに、まるで並木のように生い茂ったクルミの木を眺めていると、昔の人たちの心遣いがひしひしと伝わってくる。土手を守るクルミの木は、大きな傘のように枝を広げ、木陰を作り、たくさんの実を落とし続けてきた。
 ぼくたちも村のクルミの恩恵に、もっとあずかっていいのではないかと思っている。

       
 これはぜったいに恩恵にあずかってはいけない、トリカブトの花。夏の終わりに目立つ。

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