冬はエビ天にかぎる
    
 
 12月としてはあたたかい日になるという天気予報を見て、今年最後のフナ釣りに出かけることにした。
 これまで12月にフナ釣りに行ったことはない。寒くなると、水路のフナはどこかへ行ってしまうか、釣れなくなってしまうのである。いや、たぶんそうだろうと思って、出かけないのである。だが、11月に水郷のフナと会えなかった今年、このまま年を越すのは面白くない。そこで、あたたかい晴れの日、という天気予報に、金曜日の夕方になって、水郷行きを決めてしまったのである。
 八王子から水郷までは、高速道路で東京を横断する。八王子インターから中央道、そのまま首都高に入り、レインボーブリッジを渡って湾岸線を東へ。そして東関東自動車道に入る。埼玉の釣り場へは高速を使わないで行くのだが、水郷へはそうはいかない。だが、道路公団も新しい高速道路会社もきらいなぼくは、高速料金をなるべく払いたくない。さらに、いや、しかし、ぼくはETCもきらいなので「はつかり号」には積んでいないから、早朝夜間割引は適用されない。そこでぼくは、「高速道路をなるべく使わない」ことによって料金を節約するという方針を基本にすえている。
 八王子から水郷までは、中央道600円、首都高700円、東関道で大栄まで1,850円、計3,150円というのが基本料金である。しかしぼくは、東関道を四街道までしか使わない。さらに、「はつかり号」は軽自動車なので、料金は2割引である。これで中央道は500円、東関道四街道まで750円になるから、片道の高速料金は1,950円なのである。
 普通車でETCの割引を使うと、中央道は300円、首都高560円、東関道大栄まで950円で、計1,810円になるが、これは行きだけの話。だからぼくは、ETCを使わなくてもいい、というわけである。
 
 さて、この日の朝、成田市北部、利根川に近い根木名川の横の水路にたったぼくは、寒さに手をこすり合わせることもなく、仕掛けを用意してそっと水路に入れた。だが、仕掛けを少しずつ動かして誘っても、ウキは動かない。いや、一度、モツゴらしい引き込みはあったのだが、空振り。犬の散歩をしている地元の人に、「あっちが釣れるよ」と教わった場所でも、やっぱりウキは動かない。そこで、根木名川を渡った北側の、枯れたヨシやセイタカアワダチソウ(これが多いんですよね、まったく)に囲まれた、小さなコンクリート水路に移動して、小さな仕掛けを入れたが、数回流してもアタリがない。そこで、タモ網を登場させた。
 ぼくが使っている網は、枠がアルミのカマボコ型。柄もアルミで、今の網は2段仕込みになっている。釣具屋で1,500円くらいで売っているものだ。これを、釣りのときはジムニーに積んでいく。この網、「水生生物採集」にはたいへん効果的なのだ。(「雨が降る前に」の項を見てください。)釣りではなかなか採集できないメダカやタナゴ、ドジョウが、網で獲れてしまう。もちろん、広い場所では効果は少ないが、狭い水路では立派な働き者なのである。
 さて、ひざを曲げて、網を一気に水路の角に突っ込み、側壁に沿って上げると、何匹ものヌマエビが網に入った。ぼくは感激の声を上げた。「きょうはエビのかき揚げだぁ!」
 エビは、4cmから5cmほどのものが多く、何回か網を入れ、獲れたエビをエアポンプつきのビニールバッグに入れる。タイリクバラタナゴが1尾入ったが、これはリリース。ミニブナも獲れたので、これはキープ。となりの水路の溜りでは、ウシガエルのおたまじゃくしに混じって、小ブナも獲れた。メダカも網に入ったが、今回はりリース。
     
 釣れないフナも、網で獲れたのでムフフ。ウシガエル(外来種)はオタマジャクシで越冬するので、こんなに獲れてしまいます。ここではエビは獲れませんでした。

 この日、ぼくが竿を入れたり網を入れたりしたのは、これまでにフナが釣れた実績がある場所がほとんど。12月という初めての時期の様子を確かめたいと思ったからだ。
 水郷に通い始めてから、もう10年以上。ぼくがよく竿を出す「縄張り」は決まっていて、それを少しずつ拡大していくというのが、いつものスタイルだ。6月に初めて竿を出してフナがよく釣れた場所もこの日確かめたが、ウキはまったく動かなかった。でも、クーラーの中にはたくさんのエビや小ブナがすでに入っていたので、落胆はない。
 結局、魚は1尾も釣れなかった。でも、初冬のおだやかな風景を十二分に楽しんで、横利根川の畔の食堂で昼食をとり、国道50号を西へ向かった。佐原から成田、佐倉を抜けて四街道インターまで、約1時間。帰り道も節約した今回である。
    
         稲敷大橋の近くのヨシ原の向こうには、霞ヶ浦が広がっている。
 それにしても、と、ぼくは思う。朝、ぼくが釣りをしているそばを通りかかった、ぼくと同じくらいの地元の人の言葉だ。
「昔と違って、今は水が汚れているから、魚釣りも、釣って楽しむだけだねえ。」
 そう、フナなどを釣って食べる人は、この人の周りには存在しないのだ。今、目の前にちゃんといるのに。
 前作「春の小川でフナを釣る」でも、ぼくは主張したのだが、フナはおいしい魚である。そして、田んぼの水路で釣ったフナを食べるリスクは、他の食物に比べて高いとは思わない。ぼくやこの言葉の人が子どものころ、田んぼには今よりもずっと強い農薬が使われていた。DDTとか、BHCの類である。残留性の強いこれらの農薬は、30年以上前に使用が禁止された。もっとも、今でもあちこちの土の中に成分が残っているらしいのだが。
 今の農薬は、かつてのものに比べて、毒性が低いし、成分の分解が早い。だから、「あまり効かない」という批判すらある。もちろんぼくは、農薬の使用はできるだけ少ないほうがよいとは思っているのだが、アメリカや中国などからの輸入農産物をたくさん食べている人たちよりは、年に何度か釣ったフナなどを食べるぼくのほうが、体内への農薬の蓄積は少ないと思っている。
 たしかに、下の写真を見れば、ここで獲った魚やエビを食べようと思う人はいないかもしれない。だが、それでは居酒屋のつまみの定番、「川エビのから揚げ」はどうなのか? 水郷みやげに「フナのすずめ焼き」を買う人は、フナの生息環境を知っているのだろうか? 「知らぬが仏」という言葉があるが、ぼくは、「知ってこそ仏」だと思っている。自分の体の中に入る生き物たちの生息環境を知り、その改善に少しでも手助けしようとの決意を胸に、ありがたくいただけばよいのである。

 水路の深みに生き物が溜まっている。

          ここでフナを獲った。

 こういう看板、ぼくは苦手です。ここ、エビが獲れるんだけど。

 エビはネギといっしょにかき揚げに。この3倍できました。
 そのようなわけで、たくさん獲れたエビ(ザリガニではありませんよ、ヌマエビです)は、生きたままネギといっしょにから揚げになり、ぼくの胃袋に納まったのである。合掌。

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