三浦三崎の仲間たち 3

        小さくても アジ
 トウゴロウから豆サバへ
  
   小型のトウゴロウイワシ。これがカタクチイワシならよかったのに。
 5月23日(月)は代休。今年初めて三浦三崎に行った。夜明けの満潮時に二町谷(ふたまちや)に着き、目の前の突堤で釣り支度。白々と明けてくる風景の中で、椅子に座り、ヒシャクでコマセを撒き、竿を伸ばして仕掛けをつける。いつもながらのワクワクする時間である。
 5月のこの時期、少し早いがそろそろ回遊魚が寄っているかもしれない。まあ、晩のおかずだけ確保すればいいので、気が楽だ。
 エサのアミをつけて第一投。まだ暗くて見にくいウキニ目を凝らしていると、そのウキがスーッと沈んだ。軽くアワセると、軽い手ごたえ。上がってきたのはイワシのようだ。喜びの声を上げて手にとって、しかし、落胆。イワシはイワシでも、トウゴロウイワシだったのである。
 トウゴロウイワシは、魚屋には出ていない。魚屋に出回るイワシは、このところ不漁が続いて高値になっているマイワシ、シラスや目刺、そしてカツオ釣りの生餌となるカタクチイワシ、干物としてよい値段がつくウルメイワシの3種。トウゴロウは、昔一度食べたが味が悪くて、以後はぼくのリリースの対象になっている。「おいしい」という記事を読んだことはあるのだが、ウロコの手触りのザラザラ感も、つかんだときの硬さも好きではなく、「招かざる客」なのである。
 がっかりしながら再びエサをつけて入れると、またトウゴロウ。ああ、きょうはダメかとあきらめていたら、4尾目に釣れたのは、小さな小さなサバだった。

    全長6cm、これでもサバなんです。
 豆サバから豆アジへ 
 三崎に通い始めた20年ほど前に、6月から7月にかけて、小サバの数釣りをしたことがある。行くたびにサイズが大きくなっていき、目もよくなって釣りにくくなり、やがて沖へと出て行く。アジも同じパターンで、岸から釣れて楽しめるのは、8月ごろまでのことが多い。
 明るくなり、水中が見えるようになると、トウゴロウと豆サバの区別がついてきた。トウゴロウは沖目に、豆サバは岸壁寄りにいる。そこで、魚影を見ながら豆サバを釣り分けるようにした。もちろんトウゴロウがかかることもあるが、サバの確率がアップした。
 少したつと、今度は、岸壁寄りから別の魚影がコマセを目がけて浮いてくるようになった。色合いからしてタナゴの子だろうか。うまくそれを選んで釣り上げると、小アジより小さな豆アジである。これはいい。小さくても、サバよりランクが上のアジである。そこで今度は、アジを選んで釣る。ちょっとかわいそうな気もしたが、とりあえずは晩のおかずの分だけ確保することにした。

     これはわかりますよね、6cmの豆アジ。

 思わぬ伏兵現る
 豆サバと豆アジを合わせて20尾を超え、そろそろ海外(かいと)に移って別の魚を狙おうかと考えていたとき、ぼくの後ろから人間が近づいてきた。
 その人間は、今年ここで開業したらしい貸しボート屋である。さっき、岸壁に留めてあった、クルーザーをミニサイズにしたようなエンジンつきの豆ボートに釣り客を案内して、操作の仕方やアンカーの入れ方などをレクチャーしていた人間である。ぼくが豆サバを釣り上げているのを見た釣り客に、「トウゴロウだよ」と答えていた彼は、客が出て行ったあと、暇になってぼくの様子を見に来たのである。そして、ぼくが豆アジを釣り上げているのを見て、衝撃を受けたのである。
 ぼくの横に立って、魚の入っているバケツをのぞきながら、彼は言った。
 「食べないなら逃がしてあげようよ。」
 ぼくはキツネにつままれたような思いで答えた。
 「あのう、食べるんですけど。」
 年配の漁師なら、「まだ小セエオー、来月になればいいだがオー」とか、「○○で△△が上がっているオー」、「カラアゲにしかなんねえオー」などと声をかけてくるのだが、まだ30代と思しき彼の言葉には漁師訛りもなかった。そして、「もっと大きくなってから釣りなよ、かわいそうだよ」と続けてきた。
 まあ、これは正論である。ぼくだって、ちょっとかわいそうな気がしているのだが、年に何回もない楽しみなので、おかずだけ確保しようとしているのである。ぼくは、「数を決めていて、もうすぐ上がるんですけど」と言ったのだが、そのときにも釣りあがってきた豆アジを見て、彼は、「あーあ、情け容赦ないね」などと声を出すのである。さすがにこの言葉にはムカついて、ぼくは黙って彼が立ち去るまで釣りを続けることにした。
 ぼくが黙ったので、彼もその場を離れていったが、それにしても、無遠慮な物言いである。いや、彼に悪意がなく、彼なりのマナー意識からでたことはわかるのだが、短い(このときの竿は2.1m)一本の竿で岸からの小物釣りを楽しんでいる見知らぬ釣り人に、貸しボート屋から言うセリフとしては不遜である。そもそも、大きくなったアジはボートに乗らなければ釣れないのだ。
 これが渓流のイワナ釣りなら、話はわかる。もちろんこんな小さなイワナは全部リリースである。資源保護の、また他の釣り人のためにも必要だ。だが、回遊魚の子どもを岸壁から釣ることが資源の枯渇につながるとは思えない。自分の尺度を他人に強要しては困る。
 それにしても、これからこの場所に来たら必ず彼と会わなければならないのかと考えると、ため息が出た。
 
 天ダネを確保
 ため息をつきながら仕掛けをたたみ、今度は歩いて5分ほどの海外へ移動する。二町谷で2時間ほど過ごしてから海外の岸壁の角と、その右の小さい砂浜を探索するのが、いつものパターンである。
 海外の岸壁の角でアミで釣り始めたら、ここでもトウゴロウと豆サバである。小メジナが釣れたが、今回は料理の都合上、リリース。そこで右の砂浜に移動した。
 小磯に間の砂浜では、かつてはメゴチがよく釣れ、数年前まではハゼ(正しいマハゼ)の良型がたくさん釣れていたのだが、ここ数年はぼくが「三崎ハゼ」と呼ぶ数種類のハゼ科の魚(まずくはないが、小さいし、マハゼとは格段の差)ばかりて゜マハゼは姿を見せていない。メゴチは小型がたまにかかるだけの場所になってしまった。だが、ぼくの長年のテリトリーなので、探索は怠らないのである。

                        13cmのキス。立派な天ぷらになる。
 この砂浜では、ジャリメのエサに、「三崎ハゼ」に混じって小型のキスが4尾出た。キスはすぐにハリを飲んでしまうので、ミニサイズでもリリースはあまりできないのだが、この日は天ダネにできるサイズだったのでよかった。
 キスというと、船での釣りか、砂浜からリール竿で遠投しての投げ釣りというイメージだが、ぼくは4.5メートルの渓流竿のウキ釣りでよくキスを釣っている。ただ、ここは場所が小さいので数は出ない。それでも、から揚げだけでなく天ダネも確保できて、よかった。
 二町谷で4時半から始めて、海外で竿をしまったのが8時半。早立ち早帰りのぼくの釣りである。
 
  豆アジ豆サバ、それに豆シマアジ(左)も混じったから揚げ材料。

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