「琵琶湖外来魚駆除の日」

  
 めでたい理由
 2008年5月25日(日)の「第7回琵琶湖外来魚駆除の日」に、ぼくはめでたく参加することができた。
 それと言うのも、その前日の土曜日がぼくの勤務する小学校の運動会で、もしその日に雨が降ったら翌日、つまり25日(日)に順延されることになっていたからである。事前の天気予報では、24日(土)の八王子は「曇りのち雨」。この、「のち雨」がいつごろから降るのかで、ぼくの運命は決まるのだった。
 当日朝の天気予報では、雨の降り出しは昼から午後。これで、運動会は「決行」となった。幸い、昼ごろに雨がパラついたものの、何とか無事に終了して、めでたしめでたしとなったのである。
 しかし、ぼくにはもう一つの関門があった。それは夕刻からの職場の飲み会である。翌日は午前4時に起きなければならないので、遅くまで飲んでいることはできない。だが、せっかく運動会が終わったのだから、飲み会に出なければ意味がない。そこでぼくは一計を案じた。飲ん兵衛仲間を誘って、飲み会の前に自主的な飲み会を企画したのである。飲ん兵衛たちは時間休暇をとって早く職場を出て、1次会の会場でその前に「0次会」を敢行。そのあとで始まった1次会を途中で抜け出して、十分に酔っ払ったぼくは、降り出した雨の中を、十二分に満ち足りた気分で自宅にもどったのである。

 N700系
  

 5月25日(日)午前4時過ぎ、ザアザア降りの雨の中を、カッパの上下をまとった上に傘を差して、自宅から八王子駅まで30分かけて歩く。駅のコンコースでカッパを脱ぎ、とりあえず釣り道具を入れた大きな手提げ袋にぬれたカッパを押し込んで、改札を通って横浜線のホームに下りる。
 八王子4時53分が、横浜線の始発電車。これで新横浜6時00分発の、新横浜始発広島行き「ひかり393号」に間に合う。いつのまにかこんな便利な列車ができていたのだ。しかも車両は昨年デビューした最新型の「N700系」である。ほとんど「のぞみ」限定運用なのだが、早朝のこの「ひかり」は例外。(これはあとで調べてわかったこと。)ぼくはあまり東海道新幹線には乗らないし、「のぞみ」にも乗ったことがないので、500系にも700系にも縁がない。それが突然「N700」なので、何だか得をした気分だった。
 早朝の列車だし、運動会次第で行けるかどうかもわからなかったので、指定券は買っていない。だが、自由席もガラガラで、これもラッキーである。ぬれたカッパを取り出して網棚(もちろん「網」ではない)に干した。
 
 西は雨が上がっていた
 雨は東海道を西へ向かうN700系の窓を、激しい雨が吸い付くように流れて行く。特に豊橋から名古屋にかけては、豪雨の様相だった。滋賀県の天気予報は「雨のち曇り」だったので、いつ雨が上がるか心配になった。だが、関ヶ原を越えると雨は収まり、京都に着くと、もうすっかり上がっていたので安心した。
 京都からJR西日本の上り電車で草津まで。草津からの琵琶湖博物館行きのバスまで、20分ほどあったので、構内のベーカリーで昼食用のパンを買ってバス停にもどると、歩道にたくさんの若者たちが集まっている。いや、20人ほどなのだが、賑やかさは人数を越えている。おしゃべりの中に「ブラックバス、さわれるんか?」などと聞こえたので、これはぼくし同じ目的の初心者たちだろう。彼らは釣り道具を持っていなかったが、主催団体が竿や仕掛けを貸してくれるのだ。
 まもなく琵琶湖博物館行きのバスが来た。彼らもぼくも乗り込んで、他の客も入れると座席は8割方埋まった。ぼくはこのバスを何度も利用しているが、こんなに客が乗っているのは初めて。ちょっといい気分で、20分ほどのバスの旅を楽しんだのである。

 やはり、もちろんブルーギル
  
  ここが今回の最初の釣り場。つれたのはもちろん、……。 2008.5.25

 前年9月の「釣り大会」の報告でも書いたが、琵琶湖の南部、「南湖」と言われる琵琶湖大橋以南は、今やブルーギル王国である。ミミズをエサにして釣れるのは、ほとんどがブルーギルである。だからぼくもその覚悟で臨んでいるのだが、それにしてもブルーギルばかりである。大会の受付は10時からとのことで、9時半に着いたぼくは、受付よりも先に第1ラウンドを開始することにした。岸壁を北へ歩き、前回釣りをした石垣のところへ行くと、南西の風で岸辺が波立ち、ぼくの、小さな玉ウキ2個の「簡易シモリ」仕掛けには向かない。そもそも風波を我慢してまで釣ろうという気がないので、風が当たらない場所を探して博物館の方へ砂浜を歩く。すると、木立に囲まれ、しかも水面の波が水草で弱められている場所が見つかったので、すぐに釣り支度をする。
 朝までの雨で水温が下がっているのか、または風の影響か、最初はアタリがない。きょうは不漁かと思っていたら、ウキが水面から少し沈んでいる。「あれっ」と思ってアワセると、しっかり魚がついている。少しのやりとりで上がってきたのは、やはり、もちろん、ブルーギルである。釣れた安心感と、ブルーギルが釣れてしまった落胆で、ため息をつく。
 1時間ちょっとで15尾ほど釣ると、アタリがなくなった。これはフナ釣りでも同じで、一つの場所の魚がいなくなってしまうのだ。これを釣りの人たちは「場荒れ」という。こういうときには場所を替えればいいのである。そこで、ひとまず荷物をまとめて受付をすませることにした。

         受付のテントです。

  最初に釣れたブルーギル。そして最後まで釣れたブルーギル。

 「琵琶湖を戻す会」のテントでは、在来魚の展示もしていた。だが、ぼくには釣れなかった。

  解剖教室のために解凍されているブラックバス。50cmクラスのものもいました。
 受付で名前を告げると、申し込みをしていなかったのに、「2回目です」と言うと、受付の女性がぼくの名前を名簿から探して○をつけてくれた。一度参加すると名簿に載せてもらえるようだ。
 となりいた男性が、「秋田の大穂さんですよね」とぼくに言うので、不思議に思いながら「はい」と答えると、ぼくのホームページを見てくれている人だった。千葉県のいすみ鉄道のページに出てくるとんかつ屋の話題が出たのでびっくりすると、「私、千葉県民なんです」とのこと。インターネットはまったく偉大である。
 琵琶湖の在来魚を展示している水槽を眺めていたら、水槽の向こうから声をかけられた。前回会った、ぼくに「琵琶湖を戻す会」のメールニュースを送ってくれているSさんだった。
 実は、なぜぼくに「琵琶湖を戻す会」のニュースが送られ始めたのか、ぼくはよく覚えていない。誰かにぼくのことを聞いて、ぼくのホームページを見て送ってくれたのだと思う。でも、そのおかげでこのようなイベントにぼくが参加できるのだから、インターネットはまったく偉大である。
 釣ったブルーギルをテントの前のバケツに入れて、再び湖岸へ。岸壁にもたくさんの参加者がいて、あちこちで歓声とともにブルーギルを釣り上げている。さっきのバスでいっしょだった学生風のグループも、釣りは初心者のようだが、受付で竿と仕掛け貸してもらったらしく、元気な声を上げている。ぼくは岸壁よりもヨシの茂みのほうが好きなので、さっきの場所の近くでまた釣り始めた。
 今度はまったく入れ食いである。ブルーギルの入れ食いである。型は落ちたが、1尾は1尾である。がんばって釣る。
 だが、この釣りは心を豊かにしてはくれない。ビニールバケツの中の魚が増えるのにつれて、ぼくの心は沈んでいくのだ。前回も味わった、やるせない感情がしだいに高まってくる。
 ぼくは、この日の参加者の中でもたくさんのブルーギルを釣り上げたほうだと思う。それはぼくの腕、つまり場所の選定や仕掛け、竿さばきが鍛えられているからだと自分でもちょっと自慢している。だが、ぼくはブルーギルを釣るために釣りの腕を鍛えたのではない。フナやモロコ、オイカワやタナゴを釣りたいために鍛えた腕なのである。そのぼくの腕が、今、ブルーギルを釣っている。ぼくの腕が外来魚の駆除に役に立っているのはまちがいない。でも、それはとっても悲しいことなのだ。

 雨で増水した岸辺のヨシの間でもブルーギルが釣れた。

 ブルーギルはハリを飲み込むことが多いので、手でシメてからハサミで口の横を切り裂いてハリを取り出す。

 これがフナだったら、どんなに楽しいことか。

 こんな静かな岸辺もあります。ここで入れ食いになりました。

 28年前、琵琶湖で
 今から28年前の1980年の夏休み、ぼくは西日本の淡水魚を釣る長い旅に出た。125CCのバイク、ホンダCB125JXでの20日間のツーリングである。
 最初の1週間は友人といっしょに、長野県から北陸を巡った。青木湖でウグイやオイカワを釣り、能登半島の河口では大きなマルタウグイを何尾も釣って宿で焼いてもらい、河北潟の水路ではフナを釣った。
 福井で友人と別れたぼくは、山を越えて滋賀県に入った。雨の多い夏で、その日も雨の中をカッパを着て走り、浅井町の山里の旅館にたどり着いて、おいしいウナギの夕食に感激した。
 翌朝は、晴れ。川は増水して濁っているので、琵琶湖の北端、塩津付近の漁港の突堤で竿を出した。このときのエサは、小麦粉とサナギ粉を混ぜた練り餌。寄せ餌には、米ぬかとサナギ粉を混ぜて使った。これはその当時、相模湖でヤマベ(オイカワは関東では「ヤマベ」と言う)を釣っていたときの釣りかただ。寄せ餌を右手でつまんで投げると、澄んだ湖水に小さな煙幕がゆっくりと沈む。魚たちがしだいに集まってくるのが見え、フナやオイカワ、コイっ子が次々に銀鱗を躍らせた。
 そのあと、湖東の水路でミミズをエサに糸を垂れた。フナと、そしてフナに似ているが顔やウロコ、体つきが違う10cmほどの魚が何尾も釣れた。大型のタナゴだった。
 琵琶湖から山陰、山陽、四国を竿を積んで走り、帰りに再び琵琶湖に寄った。瀬田川の、唐橋の少し下流の岸で竿を出した。6、7cmのタナゴがたくさん釣れた。ぼくはたっぷりと琵琶湖を堪能した気分で、バイクのエンジンをかけたのだった。
 (このときの写真を今、CDに焼いていますので、近日アップ予定です。)


 そのぼくが今、湖畔でブルーギルを釣っている。本当に釣りたい魚たちが再びぼくの目の前に体を躍らせる日は、いつになるのだろうか。
 
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