田んぼの水路でフナを釣る 4

    
日本最大のタナゴ釣り
     だと思ったのに、この魚、                                中華人民共和国原産なんだって!
               (事情はずっと下に書きました)
  
 あれっ? あれれ?
 2004年10月24日、霞ヶ浦の入江から水を引いている3面コンクリートの水路。ぼくは何の気なしに、いつもの仕掛けを入れた。すると、ウキがすぐに鋭角的な動き。クチボソか、タモロコか、いや、それともこのアタリは、ブルーギルか?
 あまり期待をせずに軽くアワセると、ちょっと重い手ごたえ。ブルーギルかとがっかりしながら竿を立てると、銀白色の平べったい魚が上がってきた。あれっ、ブルーギルではない。フナにしては色が白すぎる。首をかしげながら手にとると、フナよりも背中が盛り上がり、フナよりも平べったい。でも、タイリクバラナゴにしては大きすぎる。
 「そうか、これはカネヒラだ。」
 数年前、土浦で開かれた淡水魚フォーラムで、霞ヶ浦でカネヒラが釣れ始めているという報告を聞いたことを思い出した。
     
  
 カネヒラは、どんどん釣れた。この水路には、カネヒラとヨシノボリ(ハゼ科)しかいないようだ。小さくちぎったミミズに、魚たちはどんどん食いついてくる。
 ここでぼくは困ってしまった。この日は、やしろ池に放流する魚を釣りに来たのだ。だが、いくらたくさん釣れたからといって、カネヒラをやしろ池に放流するわけにはいかない。カネヒラは、もともと琵琶湖から西に生息する魚なのだ。
 今、日本の淡水魚をめぐる状況は危機的である。その最大の要因は、密放流されたブラックバス(オオクチバス、コクチバス)、ブルーギルを筆頭とする外国産の魚による国産魚への食害にともなう生態系の破壊だが、国産魚の、在来の生息地以外への放流(意識的、または無意識的)も、本来の生態系をかく乱している。
 多くの愛好者を持つ「ヘラブナ釣り」の対象魚である「ヘラブナ」は、もともとは琵琶湖のゲンゴロウブナで、それを養殖池で育てて、全国各地に放流したものだ。このヘラブナは、植物プランクトンを専門に食べるので、放流された地域の他の魚を圧迫することなく、定着した。ぼくがよく釣るタモロコも、おいしい魚なので西日本から関東に移植された歴史があるらしい。
 淡水にすむ二枚貝に産卵する性質を持つタナゴの仲間は、水路のコンクリート化などによる二枚貝の減少で、その生息域を狭めているのだが、小型のタナゴの中で一番個体数が多いタイリクバラタナゴは、その名の通り、中国からの移入種で、日本産のバラタナゴをほぼ駆逐してしまった。そのタイリクバラタナゴも、今はその数を減らしている。
 1980年の夏、ぼくはバイクに乗って、西日本に淡水魚探訪の旅に出た。日本の淡水魚の多くは、太古の昔から、西日本から東日本に向けて生息域を広げてきた。ところが、中部地方に高い山脈ができてしまったために、それ以降は東日本への進出ができなくなってしまった。だから、淡水魚の種類は、西日本のほうが多いのである。
 この1980年の旅のとき、ぼくは琵琶湖に続く水路で大きなタナゴを釣った。まだブラックバスやブルーギルの脅威がなかったときのことだ。これが日本最大のタナゴ、カネヒラだと、帰ってきてから知った。2004年秋、だからぼくは、24年ぶりにカネヒラと対面したわけである。
 だが、なぜカネヒラが霞ヶ浦にやってきたのだろうか? 琵琶湖産のアユを釣りのために各地に放流するときに、他の魚も混じって入ってしまうことはよく言われているが、カネヒラがアユに混じるのは不自然なので、誰かが意識的に放流したのかもしれない。とにかく霞ヶ浦には内外の移入種がやたらといる。バス、ギルはもとより、アメリカナマズ、ペヘレイ、はては獰猛なアリゲーター・ガーまで捕獲されているのだから、琵琶湖のカネヒラなど、まだましなほうだ。それでも、ただでさえ個体数が減っている他の小型のタナゴ類を圧迫するのではないかと心配されている。
       
 11月14日、寒風の中でカネヒラを釣り上げたUさん。「防波堤釣りのヒイラギみたいだね。」
 さて、たくさん釣れたカネヒラの行先である。10月24日の50尾のカネヒラは、甘辛煮となって、ぼくをはじめとする人間の胃袋に収まった。平べったいのに骨が硬く、素焼きにしてから2時間以上煮て、ようやく丸ごと食べられるようになった。フナのような旨味はないが、試食した人たちの評判は、なかなかよかった。

    
               ウロコと腹わたを取ったカネヒラ。

    
    素焼きのカネヒラ。この状態で試食したが、フナのほうが味は上。

    
     できあがった、カネヒラの甘辛煮。知らない人は、「フナ」と偽っても気がつかないかも。
 
 11月14日、この日はUさんをさそってでかけた。やはりカネヒラはたくさん釣れたが、しだいにあきてきたので、ぼくはタモ網でエビをたくさん獲った。これはかき揚げ要員である。
そして、やしろ池放流用のフナを別の水路でたくさん確保。「いやあ、おもしろかった」と、ニコニコしながらの帰り道だった。
 この日のカネヒラは、Uさんとぼくの職場の水槽要員と胃袋要員に分けられた。甘辛煮のほかに、から揚げにしてみたら、なかなかいけた。
   
  網でエビをすくい、かき揚げを思い浮かべて満悦のぼく。岸辺の草は除草剤で枯れているが、エビの誘惑のほうが勝っていた。

 さて、ぼくがカネヒラだと思っていたこの魚、実は中国原産の「オオタナゴ」だと判明しました。読者の方が知らせてくださり、ぼくも写真をいくつも確認したのですが、カネヒラとはエラの後ろの青い斑の位置が違うのです。メールをくださったH.Sさん、ありがとうございました。
 それにしても、外来種の横行はどんどん広がっているんですね。次からは、このタナゴはリリースしません。



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 5.「極細水路の極楽」に泳ぐ