鉄道ウオッチングのすすめ 3

   各地で起きている「並行在来線問題」

    
 東北本線から第三セクターの「いわて銀河鉄道」に変換され、JR花輪線の列車は盛岡―好摩間はいわて銀河鉄道に乗り入れる形になった。  2007.3.5  巣子

 「並行在来線」とは、新幹線に並行して走る在来線のこと。東海道新幹線に対する東海道本線、東北新幹線に対する東北本線などにも当てはまる言葉だが、今、各地でクローズアップされている「並行在来線問題」は、新たに新幹線を建設する際の、並行する在来線の経営移譲をめぐる問題のことを言う。

九州新幹線長崎ルートの「ウルトラC」
 昨年(2007年)12月16日、長崎・佐賀両県とJR九州は、九州新幹線西九州(長崎)ルートの開業後も並行在来線(長崎本線肥前山口―諫早間)をJR九州が継続して運行することで合意した。赤字に対する補助は両県が負担するとのこと。この合意を佐賀県の副知事は「ウルトラCだ」と記者会見で発言したそうだ。
 長崎ルートをめぐっては、佐賀県の鹿島市と江北町が、並行在来線の第三セクター化に反対して新幹線建設に同意せず、そのために着工ができないままになっていたのだが、JR九州が継続して運行することになれば、地元の合意は必要がなくなる。これで長崎ルートは着工へ向けて動き出すことになった。
 しかし、新幹線が地元に財政負担を強いることには変わりがなく、新幹線の建設に反対する人たちが地元の約半数、という実態である。

 1990年の政府・与党合意
 国鉄時代、政府は国策として新幹線やローカル線の建設をすすめ、その建設費を国鉄に負担させ、国鉄が借りた建設費に高い利子を押し付けてきた。これが国鉄の赤字が膨大にふくらんだ原因である。
 分割民営化以降、1973年に国が決定していた整備新幹線の建設をすすめるために、政府・与党は、整備新幹線の開業時には並行する在来線をJRから切り離して第三セクター化するという方針で1990年に合意した。分割民営化によって分断された鉄路が、この合意によってさらに切り刻まれることになったのだ。

 碓氷峠の鉄路が消えた
     
             軽井沢駅前に到着した、横川からの代替JRバス。
 1997年に北陸新幹線高崎―長野間が開業したが、それと引き換えに、群馬県の横川と長野県の軽井沢を結んでいた信越本線の碓氷峠区間は廃止され、軽井沢―篠ノ井間は第三セクターの「しなの鉄道」として経営分離された。本来なら篠ノ井―長野間も「しなの鉄道」に移管するのが筋なのだが、この区間には名古屋方面からの特急列車がたくさん運行されており、JR東日本が経営を譲らなかったのである。
 2002年には、東北新幹線盛岡―八戸間が開業。並行する東北本線の盛岡―八戸間は「IGRいわて銀河鉄道」(岩手県側)と「青い森鉄道」(青森県側)として切り離されてしまった。
    
     いわて銀河鉄道いわて沼宮内駅。上にはJR東北新幹線の駅がある。

 東北新幹線青森開業で青森県は財政破綻?
 2010年の開業に向けて、東北新幹線の新青森までの延長工事がたけなわである。しかし、青森県内では、喜びと不安が錯綜している。それは、新たに東北本線八戸―青森間も「青い森鉄道」に経営が移され、そのことが青森県の財政を破綻に追い込むのではないかという憶測まで飛び交っているからだ。
 今、青森県とJR東日本との間で、線路設備などの移譲についての話し合いが行われている。青森県としては、赤字必至の「青い森鉄道」への売却価格をできるだけゼロに近づけたいところだ。
 2004年に開業している九州新幹線の並行在来線を経営する「肥薩おれんじ鉄道」も、開業から9年間は黒字の見通しで出発したのだが、すでに2年目から赤字に転落しているが、そのひとつの要因は、JR九州が利用客の多い鹿児島本線川内―鹿児島間を手放さなかったことにあると言われている。何とも無慈悲なことである。

 北陸新幹線をめぐる駆け引き
 北陸新幹線長野―金沢間は現在工事中で、2014年に開業が予定されている。この新幹線をめぐっても、動き、というか、駆け引きが続けられている。
 信越本線長野―直江津間は北陸新幹線開業後はローカル線になってしまう。すでに長野県、新潟県は第三セクター化を承認しているが、2007年5月に上越市議会の最大会派が巨額の負担を理由に「在来線廃止」提言を行い、地元に大きな波紋を呼んだ。
 直江津―金沢間の北陸本線についても、新幹線開業後は第三セクター化されることになっている。さらに、JR西日本では北陸本線に接続する支線(七尾線、氷見線、城端線など)についても経営分離を求める方向と思われ、これらの在来線の経営が地元自治体にのしかかる。新幹線は希望よりも重い負担を乗せて走ってくるのだ。

山形・秋田新幹線は在来線を走っている 
 東京駅から発車する山形新幹線「つばさ」、秋田新幹線「こまち」は、東北新幹線の「やまびこ」、「はやて」と併結されている。「つばさ」は福島で、「こまち」は盛岡でそれぞれ切り離されるのだが、そこから先は線路幅を広げた在来線(奥羽本線、田沢湖線)を走る。これが「ミニ新幹線方式」で、速度は制限されるものの、在来線の経営はもちろんJR東日本であり、普通列車も同じ線路を走っている。この方式ならば、「並行在来線問題」は起きないのだが。
   
     山形新幹線「つばさ」。広軌化された在来線・奥羽本線を走る。

 フィールドワークのすすめ
 「並行在来線問題」を実感するフィールドワークは、東京から一番近い群馬・長野県境をまずおすすめする。
 高崎から在来線の信越本線横川行きに乗る。「峠の釜めし」の横川で降りると、軽井沢へのJRバスが待っている。いや、本数が少ないので、時刻表で確認しておく必要がある。
 バスは碓氷峠の山道を登り、30分以上かかって軽井沢駅に着く。ここは新幹線も通っているが、しなの鉄道の乗り場から普通列車に乗る。改札口は別々である。
 しなの鉄道の車両はJRから移譲されたもので、ここはJR信越本線だと思っても違和感がない。小諸、上田、屋代と過ぎて、1時間15分ほどで篠ノ井に着く。左からJR篠ノ井線が合流して、ここはJRの駅だ。列車はそのまま長野に向かい、乗務員もそのまま長野まで行く。
 長野駅では、しなの鉄道はJRに間借りした形になっている。篠ノ井線や飯山線、それに直江津への信越本線の列車が発着するのを見ていると、第三セクター化自体が不自然なことに思えてしまう。
 東北新幹線の盛岡で降りて、八戸方面への普通列車に乗り換えようとすると、その不便さに腹が立つ。いわて銀河鉄道の乗り場へは、いったん改札口を出て、わかりにくい通路を通らなければならないのだ。好摩から花輪線に入る大館行きに乗るにも、この不便を強いられる。花輪線の列車は盛岡―好摩間をいわて銀河鉄道に乗り入れる形になっているからだ。まったく面倒になったものである。

 国鉄分割民営化、そして「並行在来線の第三セクター化」で増えるのは、地方財政の負担である。そして、国鉄が抱えていた借金(債務)約37兆円は、国とJR各社がおよそ3対2の割合で負担しているのだが、JR側はこの債務残高を少しずつ減らしてきているものの、国側は、利子によってかえって債務を増やしている現状である。国鉄問題はまだ終わっていないのだ。

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