衝撃の事件
 JR東日本の女性乗務員が職務中に乗客に強姦されたという事件には、衝撃と戦慄を覚えた。犯人は逮捕されたが、ぜったいに許せない事件である。
 さて、この事件についてはマスコミ報道でご存知の方が多いと思うが、事件の舞台背景について、少し説明させていただく。

 普通列車のグリーン車
 被害に遭ったのは、「グリーンアテンダント」と呼ばれている接客担当の乗務員である。
 JR東日本の東海道線、横須賀線・総武線、東北線、高崎線、常磐線、「湘南新宿ライン」を走る普通電車には、数年前からグリーン車が連結されている。かつては東海道線、横須賀線・総武線だけに連結されていたのだが、需要拡大を見込んで、JR東日本ではグリーン車の連結列車を大幅に拡大した。
 グリーン車には特別料金が必要なので、切符を確認したり料金を徴収するための乗務員が必要になる。かつては乗客専務車掌(男性)がそれをしていたのだが、今は女性のグリーンアテンダント(契約社員である)がその仕事をしている。
 グリーンアテンダントは東北・上越新幹線にも乗務していて、グリーン車の接客だけでなく、車内販売の手伝いなどもしている。新幹線に乗っていると、車販のワゴンを押してくるのはNRE(昔の日本食堂)の販売員だが、土産品の案内やアイスクリームを売りに来るのがグリーンアテンダントである。
 普通列車のグリーンアテンダントも、小さなかごにビールやつまみなどを入れてグリーン車の車内を回っている。グリーン車は2階建てで2両連結されていて、平日は朝の上り(都内へ向かう)列車、夕刻以降の下り列車の利用客が多い。休日も利用客は結構いるが、事件のあった早朝の下り列車のグリーン車には客はほとんどいない。
 客がいなければ乗務しなければいいと思われがちだが、そうすると無料でグリーン車を使用する客が押しかけてしまう。また、グリーン車は10両固定編成の真ん中あたりに連結されているため、早朝の列車だけグリーン車をはずすのは非効率なのである。
 ぼくもたまに普通列車のグリーン車を利用する。「青春18きっぷ」や安いフリーきっぷを使っているとき、ホームの自動販売機にスイカを入れて簡単に買えるし、ぼくが出かける休日は料金も少し安い(遠くまで乗っても七五〇円)。それに、今のJR東日本の普通車両の座席は硬くてすわり心地が悪く、これはわざとグリーン車の利用を促しているのかと思うほどなのである。それに、ビールを飲むにはグリーン車は実に快適。そんなわけでグリーン車の大衆化が進んでいるのだ。
 普通列車のグリーン車は車端部が1階建て、中央部が2階建てで、ホームや隣の普通車両とは隔絶された環境である。JR東日本の防犯対策も十分ではなかったのではないか。事件を受けて会社ではすでに対策をとり始めていると思うが、すでに女性車掌、女性運転士がめずらしくない、今の鉄道職場である。万全の対策が求められるだろう。

 列車トイレの事情
 2年前、JR西日本の特急「サンダーバード」車内で、乗客の男が隣の席の女性に長時間にわたって強制わいせつ行為をしたあげく、トイレに連れ込んで強姦するという卑劣な事件が起きている。これも犯人が逮捕されてから報道され、このときには犯罪行為に対する驚きとともに、車内に居合わせて犯罪に「見て見ぬふり」をしたとされる乗客が批判の対象になった。犯罪の現場に居合わせたときの対処の仕方を、改めて自分の頭の中でシュミレーションした人も多いのではないだろうか。
 さて、今回の事件も列車のトイレが犯行現場になっている。鉄道を利用することがほとんどない人には、かつての列車の狭くて汚い「垂れ流し」トイレの思い出だけがあるのではないかと思うが、今の列車のトイレの多くは、実は広くて快適なのである。
 新幹線のトイレが広くて快適になっていることは、多くの人が知っていると思うが、普通列車のトイレも、同じように大幅に改善がされている。今回の事件はJR東日本の近郊型の主流である「E231系」でのことだと思われるが、トイレは洋式でスペースが広い。用を足すには快適だが、それが卑劣な犯罪の舞台になるとは、何とも皮肉である。

 電車の座席が硬い!
  
    外観だけは斬新な東京メトロ10000系。  2008.7.7  和光市

 ここで話題を変える。もともと電車の座席の話を書くつもりだったのである。
 現在の(東京近郊の)通勤電車の座席には、硬いものが多い。これはJR東日本の209系というひどい車両が発端ではないかと思う。209系は1993年から京浜東北線に投入された「新しい設計思想」の車両で、座席だけでなく窓ガラスや車体、床下の機器にいたるまで、それ以前の車両とは大きく異なっているのだが、ここでは座席のことだけ書く。
 日常的に京浜東北線を利用している人は、その座席の硬さをよくご存知と思う。なにしろスプリングを廃して合成樹脂にモケットを張っただけのような代物なのだ。このタイプがその後、JRのみならず、あちこちの私鉄にまで広がっていったのだから、腹が立つ。
 それでも、JRもさすがに反省したのか、中央快速線に投入したE233系では、だいぶやわらかになっている。京浜東北線にも、今後このE233系が増備されることになっており、JRの「座席」に対する設計思想はだいぶ改善されたと思われる。

 副都心線のひどい新型電車
  
                           これが10000系の座席。
 いま、ぼくが一番ひどい座席だと思っているのは、6月に開業したばかりの東京メトロ副都心線を走る、「10000系」である。
 この「10000系」は、営団から民間会社「東京メトロ」となって初めての新形車で、正面の丸みを帯びた斬新なスタイルが目立つ、キャラメル色のラインを引いた車両。ぼくは半年ほど前に有楽町線に投入されたときに初めて乗って、その座席のあまりのひどさにあきれ返ってしまった。
 硬いのはもちろんである。だが、硬いだけではなく座席の背もたれと座面で作る角度が、90度よりも小さい「鋭角」なのである。深く腰掛けると背中が押されてしまい、浅く腰掛けると腰を痛めそうで、まったくどうしようもない座席なのである。
 副都心線には、東武東上線の車両も、西武池袋線の車両も乗り入れてくるのだが、東武、西武とも、座席がふんわりとしたタイプの車両が多い。それに比べて、民営化メトロ10000系のあまりに「見てくれ倒れ」なことか。まあ、開業記念式に石原慎太郎があいさつに来るような路線だから、ロクなものではない、などと嘲笑されそうな座席である。(彼はあそこに座ったのかネ?)読者の皆さんには、ぜひ座り比べていただきたいのである。

 接客小道具ウオッチングのすすめ
 いつも乗っている電車と、たまに用事で乗った電車を比べて見ると、ずいぶんな違いや、その逆の同一性に驚かされることがある。電車の中で、駅のホームで、次回はもっと重箱の隅を突付くことにしたい。

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