アジ、サバ、イワシの

       入れ食いだぁ


  
      夜明けの海外港。雲が空を覆っている。   2007.8.18
 子どものころの我が家の食卓には、アジ、サバ、イワシが定番だった。
 アジは、塩焼きか煮魚。最近はアジを煮ることはあまりしないようだが、小アジがよく煮魚で皿に載っていたのを覚えている。アジの刺身やから揚げは子どものころに食べた記憶がないが、天ぷらやフライは好きだった。
 三浦半島・佐島の親類の家に行くと、早朝に網で獲れたアジを包丁の背で細かく叩いて、醤油をつけて食べたが、これを「アジのたたき」と呼んでいた。大人になって、居酒屋で「アジのタタキ」がメニューにあったので、懐かしくて頼んだときに、ふつうの刺身が出てきたので驚いてしまった。
 親類の家で食べた「たたき」に、薬味と味噌を和えたのが、千葉の漁師の「なめろう」で、これは毎年イワナで作っておいしく食べている。 居酒屋の「たたき」は、本当は叩いていないので、やはり「刺身」と言うべきだろう。
 サバも子どものころから好きな魚だ。この魚は塩焼きよりも味噌煮が好きで、あとは缶詰の「水煮」にマヨネーズをかけて食べるのがおいしい。学生時代はよくこの安い「サバ缶」を買っていた。今は生協で冷凍のしめ鯖を買っている。
 サバも今や半数がノルウェーからの輸入物で、「脂が乗っていておいしい」と言う人がいるが、ぼくはギトギトしていやだ。それに、春や夏に脂が乗ったサバを食べるなんて(ノルウェーのサバはいつも油が乗っている)、季節感がなくなってしまう。夏のサバはさっぱりしているのがおいしいのだ。
 ぼくの入っている「自然派くらぶ生協」(本部は八王子市)は組合員1万人ちょっとの中規模の生協で、生産者が見える品物が多いのだが、加工されたサバはノルウェー産も使っている。ぼくは、三陸産のものを選んで買うことにしているので、季節によって脂の乗りがちがうのが楽しい。ちなみにスーパーの店頭では、しめ鯖や半身の塩サバなどの加工品は、ほとんどがノルウェーのサバで、氷に浸かった丸ごとのサバは国産、というのがふつうである。今はたいてい産地表示がされているが、国産とノルウェー産のちがいは、背中の模様。ノルウェー産のほうが、柄が大きいのだ。ノルウェー産のサバが出始めたとき、ぼくは背中の模様の異様さに驚いた記憶がある。
 生の国産サバには、マサバとゴマサバの2種類がある。腹に模様がないのがマサバ、点点がついているのがゴマサバである。市場価格はマサバのほうが高めのようだ。ぼくはどっちもおいしいと思う。
 イワシは、代表的な3種がよく知られていて、ぼくは3種類とも釣ったことがある。マイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシである。
 マイワシは、数年前から資源枯渇が心配されている、イワシの代表格。体の横に斑点が並んでいる。三浦三崎でも、以前は岸壁でマイワシをたくさん釣ったものだが、ここ10年ほどは会っていない。丸干しを焼いたのが大好きだ。刺身でも食べられるが、居酒屋で出てくるものは脂がしつこくて、あまりおいしいとは思わない。
 カタクチイワシは、稚魚がシラスの材料になる。口が堅いのではなく、上あごが大きくて下あごが細い、「片寄った口」のイワシである。三崎の漁師は「シコ」と呼んでいる。大きさは10cmちょっとで、刺身がおいしいのだが、小さいので、数をさばかなければならない。ぼくは頭をとって天ぷらにもする。わらに通して干したものがメザシで、子どものころはよく食べた。最近は店頭でメザシを見ることがほとんどないのが残念である。数が釣れると、ぼくは腹わたをとって塩水に浸け、干物にする。
 もう1種が、ウルメイワシである。眼が大きくて潤んでいるように見えるので、「ウルメ」。釣れたてはマイワシとトウゴロウイワシのF1みたいだが、鱗がすぐにはがれて、背中がきれいな青色になる。市場には干物で流通するようだ。

 さて、前置きが長くなってしまった。1年以上も出かけていなかった三浦三崎に久しぶりに出かけて、アジとサバ、そしてウルメイワシが入れ食いだったのである。
 2007年8月18日(土)、午前2時に自宅を出発、まだ明るくならないうちに釣り場に着いた。夏なので、回遊魚を狙って二町谷の小突堤を狙った。ここは車の置き場所から近いので楽なのだが、あいにく北からの風が結構吹いていて、釣りにくい。そこで、歩いて5分ほどの隣りの入り江・海外(かいと)に、荷物を持って移動することにした。よくいっしょに来るUさんは今、ネパールに行っているので、きょうは1人での釣りである。
 海外は北風を避けられるし、ほかに釣り人もまずいないので、のんびりだ。岸壁の角でコマセのアミを少し撒き、エサにもアミをつけて、夜明けの海面にそっと仕掛けを入れる。楽しい、楽しい瞬間である。
 ぼくは電気ウキを使わない。フナ釣りと同じ仕掛けの、玉ウキ2つの「簡易シモリ」仕掛けである。だから、夜明けはウキがよく見えない。近眼のせいもあるけれど。
 その、見えにくいウキが、スーッと沈んだような気がした。あれっと思ってアワセたが、空振り。エサがなくなっていたので、新しいものをつけて、もう一度。今度は眼を凝らしてみていると、やはりウキがゆっくり沈む。アワセると、しっかり手ごたえ。だが、上がってきたのはネンブツダイである。

 これがネンブツダイ。タイとは関係ありません。

 ピンボケのアジ。岸から釣れるのはこのくらいの小アジです。
 ネンブツダイは、色はきれいだが、味はおいしいとは言えないので、キープはしない。昔は食べてみたのだが。がっかりしてリリースすると、今度のアタリは手応えだけで空振り。よく見ると、ハリスが切られているので、さらにがっかり。ハリスを切るのは、フグの場合が多いのだ。
 続いてまたネンブツダイ。がっかりしてハリをはずしているうちに、海面に魚のモジリがいくつもできている。これはコマセに魚が寄ってきたのだ。気合を入れてエサをつけ、ウキ下を少し浅くして、モジリの辺りにそっと入れる。今度ははっきりとウキが消しこんだ。アワセると、相手は沖に走ろうとする。少しこらえてから引き抜くと、黄色味がかった魚である。糸をそっと手にして確かめると、アジだ。
「やったね!」
 誰もいない夜明けの岸壁で、ぼくは声を上げた。時刻はそろそろ5時。これは楽しい日になるか?

 アジが何尾か釣れたあと、少し大きな魚がかかって横に走り、ハリスを切られた。ハリが3号、ハリスの太さは0.4号なので、ここでハリを大きくする。持っていたのは7号のイワナ用のハリで、ハリスは0.6号。アジには大きいかもしれないが、あの大型の魚の正体を知りたい。
 ハリを付け替えても、アジは釣れた。そして次に、また強い引きの魚がかかった。横に走り、竿が伸されてしまわないように立ててこらえる。銀色の魚体が水の中で光る。それでも、10数秒のやりとりで、水面から抜きあげることができた。これが、サバである。18cmほどだろうか。これもなかなかいい。アジは天ぷら、サバはこのサイズなら塩焼きか。
 明るくなってくると、魚がコマセに走ってくるのがよく見える。アジとサバと、もう1種類の魚がくる。あとは、ここの捨石にいついているメジナやベラなどだ。
 その「もう1種類」は、ウルメイワシだった。12cmから17cmくらいまでのウルメイワシが深みからコマセを食べに上がってくる。この3種類が入り混じって、その中の誰かが、ハリのついたアミに食いつくのだ。バケツに入れ、少したまると今度はクーラーボックスの中のビニール袋に移す。次第にぼくは心配になってきた。ぼくはこの魚を調理して食べなければならないのだ。

 これがマサバの子。「子」というにはだいぶ大きい。

 魚をもらいに来たネコ。3尾あげました。

 「シマダイ」と呼ばれる、イシダイの子です。この場所は下のほうに根魚もいるのです。これはリリース。

 ウルメイワシです。バケツに入れているうちにウロコがはがれて、きれいな青い背中になります。刺身も干物もおいしかった。

 結局、朝の7時30分に納竿。今年初めての三崎は、またとても楽しい時間をぼくに提供してくれた。午前中に八王子に帰ったぼくは、魚の処理にとりかかった。アジは天ぷら、サバは塩焼きと味噌煮、ウルメイワシは刺身と干物である。
 下ごしらえをすませたのが12時過ぎ。そこでぼくは、別の用事をすませるために、電車で都内に出かけることにした。土曜日の1日を2日分に使う「有効利用」ができて、さらにうれしかったのである。

    
 二町谷の小突堤では、地元の人がチンチン(クロダイの子)を狙っていましたが、「サバばかりだ」とぼやいていました。風がなければ、ぼくがここにいたのですが。
 竿のすぐ下を、エイが悠然と泳いでいました。この時期はよく入ってくるそうです。


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