桧木内川の夏 2回目のイワナ釣りに挑む、せいけさんである。 2007.8.26 |
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大覚野峠 秋田県内陸部を北と南に分けるのが、大覚野(だいかくの)峠である。 秋田市の北東におだやかな山並みを見せる太平山から、奥羽山脈主稜へ向かう尾根が標高700mのゆるやかな、というより曖昧な分水嶺のラインを作り出している。この「曖昧な分水嶺」は森吉山の東を通り、多摩川温泉のすぐ北で大場谷地という湿原を作り、焼山火山から奥羽主脈の八幡平頂上へと続く。 この分水嶺の北側の水は北流して米代川へ、南側の水は南流して雄物川に合い、ともに日本海に注ぐ。 大覚野峠は、北の阿仁地方と南の仙北地方を結ぶ交通路になっているが、自動車道路(国道105号)が開通したのは1974年だそうだ。鉄道は、1989年に秋田内陸縦貫鉄道(秋田内陸線)が、東側の十二段峠を5,697mのトンネルで潜って開通している。 この秋田内陸縦貫鉄道は、年間3億円近い赤字と利用客の減少により、今、存亡の危機にある。秋田大学の学生時代に旧・国鉄阿仁合線を訪れて以来のこの鉄路のファンであるぼくは、4年前からサポーターとして存続運動を続けているのだ。 だが、このあたりはもちろんイワナの領域。存続運動にも休み時間が必要だ。ということで、2007年8月下旬の1日を、イワナ釣りに使うことにしたのである。 上桧木内(かみひのきない) 山道を登った小さな祠からの、上桧木内の風景。左奥に森吉山が見えます。 北へ流れる阿仁川と南へ流れる桧木内川では、取り巻く風景がだいぶちがう。阿仁川は河岸段丘の崖を削りながら流れ、萱草や比立内付近では、「峡谷」とも言える風景を作り出している。そして段丘の上の平地に、集落や田畑が広がっている。それに対して桧木内川は、おだやかな里山に囲まれた谷底平野を形作りながら、里の川として流れ下っている。ぼくの釣りに合っているのは、どちらかというと桧木内川のほうだ。 仙北市西木町上桧木内。この集落を、ぼくは年に何度も訪れている。内陸線の存続運動の南側の拠点がここにあるからだ。 上桧木内は、桧木内川の谷底平野が柔らかくふくらんだ小さな盆地になっている。その真ん中を内陸線が貫き、信号機に守られた小さな駅がたたずみ、両側の山すそに落ち着いた家並みが続いている。 上桧木内に鉄道が開通したのは、1989年。南からの角館線が松葉まで、北の阿仁合線が峠の向こうの比立内までで止まったまま、1987年の国鉄分割民営化を迎えてしまった。しかし、地元では、すでに工事が大方終わっていた比立内―松葉間を第三セクター鉄道として開業させる道を選択したのだ。それから18年しか経っていない今、廃止が取りざたされているのだからあきれてしまう。 ぼくは、秋田内陸線は秋田県への観光客を誘致する上で、とても重要な路線だと思っている。南の始発駅・角館は、全国的な観光地で、田沢湖からも近い。沿線第一の観光地・森吉山は、高山植物や紅葉、冬の樹氷シーズンには山上へのゴンドラを運転している。そして北には十和田湖や白神山地が控えている。 旅行会社もここ数年、内陸線への乗車を組み込んだツアーを増やしていて、観光シーズンには内陸線は車両をフル動員して観光客をさばいている状況なのだ。それなのに秋田県知事は、何年も前から、廃止したい意向を表明している。内陸線の廃止は宝の山を日本海に捨てることだと、ぼくは思っているのだ。 桧木内川の流れに沿って、内陸線が走る。 2007.8.25 上桧木内―左通 なか志ま旅館 また鉄道の話になってしまった。このページは桧木内川のイワナ釣りのページなのである。 「桧木内川」と聞いて、どこかで聞いたことがある、と思う人は、角館の桜を見たことのある人だと思う。たくさんの花見客で賑わう角館の、堤の桜の下を流れているのが桧木内川である。大覚野峠とそれに続く山並みから流れてきた桧木内川は、角館あたりではアユ釣りの川として知られている。上桧木内でもアユ、そしてウグイにヤマメが混棲しているそうだ。したがって、ぼくのフィールドはもう少し上流ということになる。 8月25日、ぼくは、阿仁のスキー場近くの「阿仁の森 ぶなホテル」の山田博康さんを訪ねて内陸線のことなど話し合ってから、去年岩手県の区界で岩魚釣りを初体験したせいけゆうほさんと、上桧木内のなか志ま旅館で合流した。翌26日を1日釣りにあててもう1泊するというスケジュールである。 なか志ま旅館は、上桧木内での集会のときや、内陸線の写真を撮りに来たときに、これまでに何度も泊まっている。食堂を兼ねた、地元の人たちの溜まり場、というか、居酒屋も兼ねているような楽しい旅館である。料理は山のもので、山菜やキノコ、それにカジカ(魚の)やタニシまで出るので、ぼくはいつも楽しみにしているのだ。 この日も、座敷でせいけさんとビールを飲んでいたら、となりに顔見知りの「秋田内陸線を守る会」の人たちが偶然来て、賑やかになった。今回はイワナ釣りなんですよ」と言うと、推薦の釣り場があるというので、ちょうど持っていた2万5千分の1地形図を開いて、くわしく行き方を教わってしまった。常連になるというのは実に楽しいものである。 転進、そしてヤマメ 夜明けに起きたら、曇っている。きのうは快晴だったのだが、これなら汗をかかずに釣りができそうだ。身支度を整え、せいけさんをぼくのジムニー「はつかり号」に乗せて、いざ出発。最初は、昨日の晩に教わった沢に入ることにした。「はつかり号」は林道を快調に走る。 言われた場所に車を停め、沢に降りて行くと、ぼくにはちょうどいい沢だが、人生で2回目、まだ入門編のせいけさんにはちょっときつそうだ。仕掛けを引っ掛けそうな気がする。 魚は走った。だが、せいけさんは沢の中を歩くのに苦労していて、釣りどころではない。5分ほどして、ぼくは場所を替えることにした。 今度は、さっきよりも川が大きくなっている所。せいけさんも、「ここなら大丈夫そうです」と安心顔である。道が沿っているので、釣り人はそれなりに入っているだろうが、ここは秋田である。少しはイワナも釣れるだろう。ぼくたちは勇んで遡行を始めた。 釣り始めてから10分ほどして、渕からの流れ出しに入れたせいけさんの竿がしなった。上がってきたのは、18cmのきれいなヤマメ。せいけさんにとって、初めて釣ったヤマメである。もちろん、キープ。今夜の宿の夕食のおかずである。とりあえず安心したので、宿で作ってもらったおにぎりとコーヒーで朝食をとった。 そのあとはしばらく、リリースサイズのヤマメのためにミミズを消耗してしまったが、せいけさんに17cmのイワナ、ぼくに20cmのヤマメが来て、まあまあの釣果である。ここで一度車に戻り、魚をクーラーボックスに入れて、もう少し上流へ行くことにした。 次に入った上流は、最初の沢よりは楽だが、さっきの場所よりもきつい。イワナがいくつか出たが、せいけさんが疲れてしまったので、とりあえずいったん宿に戻った。せいけさんは、このあと内陸線に乗って運賃収入増に貢献するとのことで、午後はぼく一人でもう少し釣ることにした。
2時間ほどで、キープはヤマメ3尾にイワナ1尾。これで今夜の2人のおかずは確保された。いや、旅館のおかずはとても多いので、このくらいにしておかないと、食べきれなくなってしまうのだ。 それにしても、疲れた。宿に帰ったら、もうぐったり。せいけさんはまだ内陸線に乗っているはずなので、風呂からあがったらそのまま畳の上で寝てしまった。それなりに体力はつけているはずなのだが、これは歳のせいなのだろうか。 宿の夕食は、もちろんヤマメとイワナが加わって、豪華絢爛。酔いも回って、楽しい宴。今年のイワナつりは、これでおしまい。また来年も、よろしくね。
やっぱりぼくはこのくらいの沢が好き。このポーズ、精悍でしょ。 「東北の渓のザッコ釣り」のトップにもどる ホームページのトップにもどる |