先行者は クマ

                          2006岩手くんせい紀行
  
       「先行者」は岸辺のミズバショウの実を食べていた。 2006.7.23
 2006年の岩手くんせい紀行は、料理の達人Uさん、アウトドアの達人Sさん、釣りの達人の私に加えて、Uさんの知人のOさん、計4人で実施された。
 7月22日(土)未明にぼくがジムニー「はつかり号」で八王子を出発。五日市でOさんとUさんを乗せ、青梅のSさん宅へ。ここでSさんの軽自動車が加わり、2人ずつに分乗して北へと走った。途中から雨、宮城県はザアザアぶりの雨。だが、岩手県に入ると雨は弱くなり、盛岡近くではもう止んでしまった。なんという幸運!
 午前10時前、盛岡南インターからの県道が国道4号と出会う地点の釣具店に到着、10時の開店を待って、エサのミミズなどを買う。次は我々の食料調達だが、いつも買い物をしていたサティが、なんと閉店してしまっているではないか。そこで調達場所を近くのマックスバリューに変更、分担して食材や調味料、雑貨を買い入れた。
 午前11時過ぎ、区界旅館に到着。きょう、明日はテントなので、ここでの泊まりは24日(月)だが、おかみさんにあいさつをして、ずうずうしくも焚きつけの薪や消し炭、新聞紙をもらう。毎年のことなので、おかみさんはわれわれが着く前にすでに用意してくれていた。ありがたいことである。
 このあたりは、さっきまで雨が降っていたとのこと。そして明日、あさっては「くもり」の予報なので、うれしくなってしまう。これまで雨に降られないことがなかった「くんせい紀行」なのだ。
 元気に走っていつものテン場に着く。荷物を下ろして設営作業だが、あまり役に立たないぼくは、いつものように釣り券を買いに行った。
 帰ってくると、テントはすでに張られていて、あとは宴会場の設営。去年使った支柱の木がそのまま使えたので、楽にできた。いや、ぼくは支柱を支えていただけなのだが。
 設営が終わったとき、時刻は午後2時を回っていた。これからがきょうの釣り。限られた時間で晩飯のおかずのイワナを確保しなければならない。集合を5時と決めて、SさんとOさんは一人ずつで、ぼくとUさんは2人いっしょに、それぞれの釣りに向かった。
 宴会場の屋根はブルーシート。Oさん(左)は元・山屋で今は自家用の畑の世話をする毎日とのこと。ぼくよりずっとパワフルです。
   
 屋根の支柱を立てる。何年も使っているシートは、煙でいぶされている。

 冷やし場と洗い場を作っています。

 かまどは2つ作ります。

 ぼくとUさんは、途中から「天国」状態になり、2人で20尾を釣って時間ぴったりにテン場へ。すると、OさんとSさんはすでに薪用の流木を集めてくれていた。釣果は、Sさんが7尾、Oさんの入った所は魚影が薄かったとのことで、ボウズ。
 ヤブ沢の釣りに慣れているぼくたちと違って、Oさんは広い本流での釣りをしてきた人なので、勝手が違うこともあるだろう。明日はいい釣りを味わってもらいたい。
             
       23cmのイワナとUさん。ほとんど山菜採りのコスチュームである。

 夕食のおかずの「イワナのなめろう」「ホイル焼き」に使う以外の魚はくんせいに。まず塩水に1時間ほど漬けます。

 ただいま調理中。

 Sさんはカマドの火を起こします。

 「なめろう」用にイワナを下ろすUさん。 

 イワナをあぶり、飯ごうで明日の朝飯を炊きます。

 すっかり暗くなりました。Uさんが、去年開発した「さつま揚げチャンプルー」を作っていますが、さつま揚げを買い忘れたので、さつま揚げ抜きのさつま揚げチャンプルーに。右下はイワナのホイル焼き。

 翌日は、UさんとOさん、Sさんと私の2組になって、長丁場の釣り。午前7時ごろに釣り始めて、テン場に午後4時集合である。、
 ぼくとSさんが入った沢は、イワナは多いのだがヤブも多く、逃げるイワナを見に行ったみたい。それに、この沢には「先行者」がいた。
 「先行者」と言っても、イワナは出るので、きょうのことではない。だが、岸辺の大きく育ったミズバショウの葉が倒され、花のあとにできているはずの実がなくなっている。流れから岸に上がって草を倒して転がったような跡がある。それが、ぼくたちが釣り上る沢に沿ってずっと続いているのだ。
 「これはクマだね。カモシカじゃこんなことしないよ。」
 Sさんもぼくも、結論は同じだった。
 このあたりはもちろんクマのテリトリーなので、いつもSさんは鈴を腰に下げ、、ぼくはホイッスルをときどき吹いている。でも、こんな生々しい痕跡を見たのは初めてだった。それでも、ぼくたちは音を出しながら釣りを続行。メチャメチャのヤブが多いので、ぼくはカッパの上下を着たまま。でも、それなりの釣果を得ることができた。

                ここも草が倒されている。昨日か、おとといか。

 ゆるい流れのところでは、イワナは逃げるだけ。でも、姿勢を低くしてうまく流すと、たまにエサに食いついてくれる。

 ヤブで大変だけれど、ぼくはこの沢が大好きです。
  
 シラカバの根元からイワナが出ます。明るい渓です。
   
 この日一番のイワナ。Sさんがハリにかけましたが、根に入られようとするところをぼくが糸を手で寄せて引き出し、Sさんの手網ですくいました。ヤブ沢ではチームワークが必要です。

 午後4時、テン場着。さっそく宴会とくんせい作りの準備である。5時過ぎからくんせい用のイワナを焼き始め、宴会は6時ごろから始まった。そして延々、午後11時まで。いつもの通り、歌も出て、まったく山の動物は騒音公害に悩まされた夜だったと思う。ごめんね!

 ウチワとしても活躍する古田監督です。

 イワナの天ぷらは、絶品!

 イワナは今、木と竹で組んだ網の上に載っています。

 今年は新しいジムニー「はつかり号」で行きました。何しろナンバーが「八王子583」なんです。(鉄道ファンにしかわかりません。) 「汽車ポッポ」を歌う私(左)とOさん。

 ウルサイ者どもの夢のあとは、きれいに片付けました。

 クマからすれば、「ウルサイ人間注意」だろうね。
 くんせいがなかなかできなくて、午後11時まで歌を歌いまくったウルサイ者どもは、翌朝午前4時ごろから三々五々起き出した。朝のうちにテントを撤収して車に積み込むのである。
 料理長のUさんは一番早く置きだして、カマドの火を起こし、飯ごうで飯を炊いていた。次はぼくで、しばらくボーッとしたあとで、Uさんに言われて食器洗い。そのうちにSさんとOさんが起き出した。
 朝飯を食べ、テントや宴会場などをすべて撤収したのが7時過ぎ。この日の釣りは、もうのんびり遊びの釣り。釣れたイワナはクーラーボックスに入れて生で明日持ち帰るので、たくさん釣れないほうがいいのだ。だから、のんびり楽しめる場所に散った。
 ぼくは、それでも27cmを筆頭に、3時間近くで7尾。Uさんは10尾。テンカラを楽しんだSさんは3尾をキープしていた。
 みんなが合流したころから、雨が降り出した。なんというタイミング。近くの橋の下でおにぎりの昼食を食べ、あとは温泉で体を清めて、区界旅館に午後3時到着。もう、すぐにビールで乾杯する飲ん兵衛4人組だった。
   
              今回のぼくのレコード、27cmのオスイワナ。

 最終日のぼくの釣果です。

 すてきな流れて釣りました。

 温泉に行く途中で見たジムグリ。かわいそうに、頭を車に轢かれて死んでいました。

 25日(火)、Sさんの車の荷物を整理しています。

 くんせいを満足そうに包むSさん。

 区界高原のシンボル・兜明神岳をバックに記念撮影。楽しい旅でした。
 来年も行く予定の「くんせい紀行」だが、来年はテン場を変えなければならなくなりそう。それは、テン場に測量用の杭が打たれていたからだ。
 ぼくたちの「くんせい紀行」のフィールドは国有林で、あちこちでカラマツの伐採作業が行われている。おととしテン場を変えたのも、いつもの場所の奥で伐採作業が行われていたからだ。いくら漁協の入漁券を買っていても、伐採作業のじゃまにならないようにするのが遊漁者のマナーである。
 今年テン場に打たれていた杭から察すると、もともとテン場から川を横切って作られていた昔の作業道をもう一度作り直して、この奥を伐採する計画のようだ。そうなれば、環境は一変してしまうし、ブルドーザーがテン場を行き来する状況では、とてもテントを張るわけにはいかない。

 ぼくは伐採自体を否定するわけではない。今伐採しているのはほとんどが、かつて植林したカラマツであり、伐採のしかたも、昔のような「全山皆抜」ではなく、エリアを細かく決めての伐採である。岩手でのぼくの経験では、伐採が行われると、一時的にその沢のイワナは減少するが、沢が落ち着いて昔の姿を取りもどしてくると、またイワナは回復する。だから、このテン場近くのイワナも渓も、、年月が経てば回復するだろう。もちろん、ぼくたちはそのころすでに老いているかもしれないが。
   
   今も少しずつ伐採が行われている。左はブルドーザーが入った作業道。

 イワナは人類よりもずっと長い、悠久の時を刻んできた。そのイワナの今の最大の敵は、地球温暖化である。冷水域に住む彼らは、温暖化で確実に棲家を奪われていく。
 イワナが回復可能な伐採のしかたは存在する。だが、地球温暖化は……と、ずっとずっと先のことまで考えてしまった今回の「くんせい紀行」だったのである。

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