「ちいさな木」のひみつ |
![]() 山の村の、1けんだけのケーキ屋さん、『ちいさな木』のドアをあけて小さな女の子が、元気よく入ってきました。 「やあ、ユリちゃん、いらっしゃい。」 たなのふきそうじをしていた、タツおじさんが、声をかけると、ユリちゃんのうしろから、小さな男の子が、かおを出しました。 「この子、私のいとこの、トシちゃん。きのう、町から、おとまりにきたんだよ。」 「こんにちは。うわぁ、おいしそう!」 男の子は、タツおじさんに小さくあたまを下げると、ケーキがならんだガラスのケースを見て、うれしそうな声を上げました。 「トシちゃんはね、ケーキがだいすきなの。だから、お母さんがね、ここのケーキを、食べさせてあげなさいって。ねえ、トシちゃん、どれにする?」 男の子は、ちょっと考えてから、タツおじさんに、ききました。 「あのう、モンブランは、ないんですか?」 タツおじさんは、にっこり笑って、こたえました。 「トシちゃん、ケーキにくわしいんだね。でも、うちでは、モンブランは、秋にならないと、つくらないんだよ。ざいりょうのクリが、手に入らないからね。」 「ふーん。」 がっかりして、もういちどケースの中を見たトシちゃんは、オレンジ色の小さなくだものをのせたショートケーキに、気がつきました。 「この、上にのっているのは、なんですか?」 タツおじさんは、また、にっこりわらって、こたえました。 「それは、モミジイチゴ。いま、山でたくさんとれるんだ。さっぱりしていて、おいしいよ。」 「ふーん、じゃあ、それをください。ユリちゃんは、どれにするの?」 「わたしも、それにする。ここで食べていくから。それから、おかあさんへのおみやげに、スグリのタルトと、モミジイチゴのジャムを、ちょうだいね。」 「はいはい。」 タツおじさんは、みせのテーブルにすわった、小さなおきゃくさまに、紅茶とケーキを、はこんできました。 ショートケーキの上の、モミジイチゴを食べたトシちゃんが、ふしぎなおいしさに、目を大きくして、ききました。 「これって、やおやさんで見たことがないんだけど、どこでうっているんですか?」 ユリちゃんとタツおじさんは、かおを見あわせて、クスッと、わらいました。 そのとき、『ちいさな木』のドアが、また、げんきな声といっしょに、げんきよく、あきました。 「おはよう、モミジイチゴを、とってきたわよ。」 「ああ、ヒロコちゃん、ごくろうさま。」 タツおじさんの声といっしょに、ドアのほうを見たトシちゃんは、口と目を大きくあけたまま、かたまってしまいました。なぜって、その、オーバーオールのジーンズをはいて、竹のかごを手にもった、ヒロコちゃんという女の子は、人間の子どもではなくて、クマの子どもだったのですから。 「やあ、ヒロコちゃん、ひさしぶり。」 ユリちゃんが、クマの女の子に手をふったので、トシちゃんは、こんどは、ユリちゃんをふりかえって、びっくり。 「ユリちゃん、ユリちゃん、ねえ、クマと、しりあいなの?」 「ウフフ、トシちゃんは、まちの子だから、しらないんだよね。わたしたち、みんな、クマさんたちと、なかよしなんだ。ヒロコちゃんは、いつも、ケーキにつかうくだものを、とどけにくるんだよ。」 クマの女の子は、トシちゃんを見て、にっこりわらいました。 「ヒロコちゃん、いっしょにケーキを食べていくかい?」 「うん、わたし、シュークリームがいいな。」 といいながら、ユリちゃんのとなりにすわって、二人でおしゃべりをはじめました。 トシちゃんは、もう、なにがなんだか、わからなくなってしまいました。 でも、ショートケーキの上のモミジイチゴを、もう一つ、口に入れたとき、トシちゃんは、山の村のユリちゃんのことが、とっても、うらやましくなりました。 (いいなあ、クマの子と、ともだちだなんて。) 『ちいさな木』の、まどのむこうには、みどりの山のけしきが、きらきらと広がっていました。 ![]() |
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