クマの村へ行った三年二組 |
転校生が やってきた 2学期の始業式 きょうは9月1日。さくら台小学校の、2学期の始業式の日だ。校庭には、夏休みが終わったのをあきらめきれない顔と、久しぶりにみんなと会って、はしゃぐ顔、それに、眠たそうな顔が、入りまじっている。 校長先生の話が終わると、いよいよ転校生の紹介だ。毎年5、6人が、この日に朝礼台の前に並ぶのだが、きょうの転校生は、たった一人だけ。背の高さからすると、2年生か3年生くらいだろう。 「オレたちのクラスかなあ。」 3年2組のユウタは、すぐ前のヒロアキをつついて言った。 「そうだといいな。うちのクラス、オンナのほうが強いから、オトコがふえるとありがたいよな。」 と、ヒロアキがうしろを向いたとたん、ヒロアキの前のカナコが、ヒロアキの足をけっとばした。 「うるさいわね、静かにしなさいよ。」 「何すんだよォ」とヒロアキがカナコをにらみつけたとき、マイクの声が耳に届いた。 「3年2組に入ります。」 とたんに、まわりのクラスからは、ため息が、3年2組の列からは歓声が、ワァッと上がった。 こぐま ヨシオ 始業式が終わって、教室にもどった3年2組の27人は、担任の春山ヨウコ先生がやってくるのを、今か今かと待っていた。いや、27人が待っていたのは、ヨウコ先生がつれてくる転入生なのだが。 「何ていう名前だっけ?」 ヒロアキが、となりのユウタに聞いた。 「ええと、こぐま……なんだっけ? 小さい声だったから、よく聞こえなかったなァ。」 「あんたたち、ほんとにダメね。ヨシオよ、ヨシオ。」 カナコが、チラリと横目で二人をにらんで言った。 「そんな言いかたってないだろ! オマエがオレをけったから、聞こえなかったんじゃないか!」 「そんなの、自業自得よ。」 「なんだよ、その『ジゴウジトク』って?」 「そんなことばも知らないの?」 「なにい! よくもバカにしたな!」 ヒロアキが、いすをけとばして立ち上がったとき、教室のドアが、ガラリと開いた。みんなは、いっせいにドアのほうを見た。ヨウコ先生のうしろから、男の子が、きんちょうした顔で入ってきた。「ワァーッ!」という歓声が上がり、その男の子は、はずかしそうにうつむいた。 「静かに、しずかに!」 ヨウコ先生が大きな声を出したので、みんなはすぐに席に着いた。 「おはようございます。」 「おはようございまーす!」 あいさつがすむと、ヨウコ先生は、その転入生を紹介した。 「秋田県の、ひたちない小学校から来た、小熊ヨシオくんです。きょうから、みんなといっしょに勉強します。山奥の学校から来たので、わからないことが多いと思うけど、みんな、親切に教えてあげるのよ、いいわね?」 「ハーイ!」 ヨウコ先生が、「小熊ヨシオ」と黒板に書いたとき、ヒロアキとユウタは、思わず笑い転げてしまった。なぜかって、ヨシオの顔も体つきも、ほんとうに子グマのように見えたから。 席がえのくじ引き 2学期の最初の時間は、席がえだ。ヨウコ先生は2ヶ月に一度、席がえをするのだが、これがいつもたいへんな騒ぎになる。 ヨウコ先生は、子どもたちみんなに、竹のくじを引かせて席を決める。 「先生、くじを引く順番は?」 ユウタが質問した。ヨウコ先生は、ちょっと考えてから、 「はじめに、ヨシオくんに引いてもらおうかな。そのあとは、ヨシオくんと早く友だちになりたい人から、順番に並んでね。」 と言った。そのとたん、みんなは「ワァーッ!」と歓声を上げた。そして、10秒もかからないうちに、ヨイオのうしろに、おしくらまんじゅうのような列ができた。クラスで一番小さいナツミが、列からおし出されて転んでしまい、泣き出しそうな顔で、一番後ろに並びなおした。 ヨシオが最初に、そっと竹のくじを引いた。みんなが見つめたその先っぽには、「20」と書かれていた。前から4番目、窓から2番目の席だ。 次に引いたのは、ヒロアキ。しかし、番号は「27」だった。ヨシオのななめうしろの席。ヒロアキは、ゆかを足でドンとけとばして、くやしがった。 ヨシオのとなりの「19」を引いたのはカナコ。「ヤッタゼ!」と、ヒロアキに見せびらかして、くやしがらせた。 最後に引いたのは、さっき転んでしまったナツミ。まだ悲しそうな顔をしているナツミに、ヨウコ先生は、 「だいじょうぶ? きっと、いい席よ。」 と、笑って声をかけた。 ほんとうだった。ナツミの引いたくじは、カナコと反対側の、ヨシオのとなり、「21」。ナツミの顔が、パッと明るくなった。 ヨシオのとなりの席になったカナコは、休み時間に、ほかの女の子達と連れ立って、ヨシオに学校の中を案内して回った。ヨシオがすなおに女の子たちに連れられて行くので、ヒロアキは口をとがらせてくやしがった。 「なあ、ユウタ、いくらヨシオが山の中の学校から来たからって、あいつら、親切すぎるよな。せっかく男子がふえたと思って喜んだのに、これじゃあ話がちがうぜ。」 「うん。だけど、遊ぶときはオレたちといっしょだよ。最初だけ、女子にやらせておけばいいじゃないか。」 ユウタがそう言っても、ヒロアキは、やっぱりおもしろくない。おもしろくないが、とにかく休み時間だ。ヒロアキはユウタといっしょに、ドッジボールをかかえて、校庭に走って行った。 (つづく) くまのたいら村のトップにもどる ホームページのトップにもどる |